「笑顔の私」を演じる

「スマイル仮面症候群」と女性の職場環境





■数日前の新聞にでていた。


「スマイル仮面症候群」という不思議な病名(?)の症状が、
働く女性の間にひろがっている、と。


企業などでカウンセリングを行っている
精神科の医師が報告していたのだが、


仕事などで「笑顔の私」を演じ続けるうちに、
素顔に戻ることができなくなっている
というのだ。




■ある女性は、彼女がつらい話をしているのに、
表情がなぜか満面の笑み。


「作り笑いはいいですよ」と声をかけたらその女性が驚いて、
「わたし、今、笑ってましたか」と言ったというのだ。




■この記事を読みながら、はじめは信じられなかった。


つぎには、働く女性の職場における精神面で
強いられる「心がけ」がもたらすところの悪影響が、


こうした信じがたい症状まで生み出し、現代の職場環境は
そこまで歪んでいるということなのかとも思った。




■過剰なまでに感情を抑制したゆえに生じた症状とのことで、


仕事上の対人関係や対話などで、
気持と無関係に笑顔が求められた結果とのこと。


またそういう症状の女性は、ニコニコ笑顔で良く見られたい、
という思いが常に「笑顔の私」を演じるように


心に強いるところから来ているとも。





■人間は普通、社会的な立場から「役割の仮面」を演じる。


でもこの「スマイル仮面」はそれとは明らかに違う、
と医師は言う。


前者は一時的なもので、その時だけの役割。


ところが後者は常時仮面をかぶり続けているのだという。





■だいぶ前だが、通信大手の研究所を取材したことがある。


基礎研究でなぜか「笑顔の研究」をおこなっていた。


笑顔に関するあらゆる研究をおこなっていた。


その時の取材内容をほとんど忘れてしまっているので、
なぜそのような研究をしていたのかいまは思い出せないが、


そのときで覚えているのは、
僕の経験として、研究者にぶつけた質問だった。




■知人の細君だったけど、彼女はいつも笑顔で接してくれていた。


ところが何度も会うたびに、その笑顔がどうやら作り笑い、
つまり職業上身につけたスマイルだったことに気づいた。


結婚前まで(つまりついこの間まで)客室乗務員をしていたので、
それで身に付いたスマイルなのだろう、と。




■いずれにしろその笑顔があまりにも素晴らしかったので、
(ほとんどの状況下で)笑顔というのはいつでも相手に応じて


作ることができるものだろうと思い、


その旨を研究者にぶつけたことをおぼろげに覚えている。


当然、当時は「スマイル仮面症候群」などという症状はないが、
そんな過去があったので、この記事が目にとまったのだろう。




■人前でおおっぴらに喜怒哀楽を表出するのは、
はしたないこと、恥ずかしいことではあるものの、


それではやはりストレスがたまる。


「スマイル症候群」が感情の発露を抑制して
無理矢理コントロールしなければならない現代人特有の症状と
言ってしまえばそれまでだが、


大人の男でさえ、働く場での演技と感情の抑制をしつつも、
そのバランス感覚を保つのはなかなか難しいもの。


(よほどフランクな職場環境なら別だろうが)ましてや女性、
それも若い女性である、難しくて当たり前だろう。




■「役割の仮面」を超えた演技を強いられる職場環境である以上、
この症候群はまだまだ増加するとおもわれる。




■「私という存在を決めているのは、
どれも他者との関係であって、自分自身ではないのです」



最近読んだ本にあった脳科学者の言葉だ。


他者との関係で「良く見られたい、思われたい」という思いが
一方にある以上、


他方では、このような覚醒した言葉を
絶えず噛みしめていることではじめて、


こうした症候群から逃れることができるのかもしれない。







2008年2月5日(火曜日)