玉川上水(武蔵野市)の事務所から…

ライターの仁です。企業広報分野でIR(Investor Relations)などの仕事をしています。折々の、あることないことで、気にとまったことを発信します。

January 2015

ROEを経営目標にすえることの「弊害」について、もっと自覚的であれ――著名エコノミスト

2015年1月18日(日曜)

今日18日(日曜)の日経が一面トップで扱っていたのが「ROE経営」についてで、

「ROE経営目標が広がる」との大きな見出しで、
ROE(=自己資本利益率)経営を目標に掲げる企業が増えており、
企業の「稼ぐ力」の強化がテーマになっている、と記事は続く。

その一方で、このROE経営に異論を呈しているのが
村上龍が主催するメルマガ(略称JMM=Japan Mail Media)で、
新年の特別討論を数回に分けて送信している。

座談のメンバーは以下の御仁だ。(異論は第三回目のメルマガに)

特別座談会「アベノミクスと日本の現在」
    出席者
    □ 山崎 元:経済評論家、楽天証券経済研究所客員研究員
    □ 北野 一:バークレイズ証券日本株チーフ・ストラテジスト
    □ 河野龍太郎:BNPパリバ証券経済調査本部長チーフエコノミスト 
    □ 村上 龍 

今日18日時点でメルマガは四回目だが、
連日立て続けに送られてきており、まだ続くようだ。
そこで話される内容がとても興味深く面白い。

タイトル通り「アベノミクス」をまな板にのっけてのことだから、

話題は一通りアベノミクスの政策と、
実施された個々の施策(とその付帯的な過去の時代状況や事情などを論拠として挙げつつ)などの
是非を歯に衣着せぬ物言いで、

これらの御仁が縦横に語り合っている。(座談の文字起こしで、かなりの長文)

メルマガのすべてを、ここで要約して紹介するのはしんどいしその気もないので、
ここではとてもわかりやすい、
企業の稼ぐ力である「ROE経営」についてのコメントのみを紹介したい。


いまや広範に知られており伝統的な経営指標ともいえるROEは、
ほとんどが肯定的な側面で受けとめられている一方で、
この座談の出席者が次のように述べている。

「(経営目標として)ROEみたいなものを目的にしてしまうことの弊害に、
あまりに無頓着なのではないか。

それをさらに強化しようとしているのが今の状況なので、
もっと悪くなる可能性はあると思っています。」(詳しくは後述)


と述べたのは北野一氏だ。

で、もう一つ別にROEについて重ねての指摘があった。
日経の記事とも関連する内容だ。

「山崎:コストを抑制して利益を出す。
キャッシュがあればそれを賃金に回すよりも自社株買いや配当に回して、
自己資本をスリムにする。

数値目標としてのROEをてっとり早く達成するにはそういう話になりますよね。」
(これで分かる人もはともかく、意味がよくわからなくとも、ここも後述)


この発言を受けて、北野氏が述べる。

「北野:外国人に見せると「へー」となるのは、
日本の社長の平均在任期間なんです。

4年以内の人が50%と、短いんです。

それぐらいしかやらない人がROEを上げろと言われたら、
コストカットしかやれることがない。
相手を見て目標を与えてあげないと。」


そして、この北野氏の指摘にふさわしく、
いみじくも日経が記事で触れているのだが、
このROA経営をして、「中期計画の目標に掲げる企業が増えてきた」と。

3〜5年の中期計画に掲げるのはともかく、
4年以内の経営者がROEを目標にしたら、
北野氏が言うようにやることは「コストカット」しかない。

で、この後、このROE発言の要旨、要点のみに触れようと思ったが、
むしろその部分を貼り付けたほうが誤解がなくてわかりやすいだろうから、
そうすることにした。

これらの御仁の発言についてもっと詳しく知りたい方は、JMMで読んでほしい。

以下はJMMからの引用。
説得力があり、首肯できる発言が続く。(棒線・太字は引用者)


村上:河野さんと山崎さんの話を合わせると、日本人の考え方にしろ企業経営にしろ、近代化から高度成長のころまでは最もよくマッチしていたものが、その後はずっと合っていないということだったら、すごく暗い話になりますね。

北野:合ってないのはその通りだと思います。この20年間の構造変化でいうと、株主構造がだいぶ変わったんです。ほとんど日本人どうしが持ち合っていたものが、今は外国人が3割近くなっています。日本経営に欧米流を導入しましょうということが言われてきましたが、それが日本人の体に合ってないのではないかと思っています。その意味でマッチしてないんだと思います。

例えば東証1部と2部。2部のほうがROEは低いです。しかしこの20年の株価のパフォーマンスを見ると圧倒的に2部のほうが高い。結果的に高くなるのはいいことですが、果たしてROEみたいなものを目的にしてしまうことの弊害に、あまりに無頓着なのではないか。それをさらに強化しようとしているのが今の状況なので、もっと悪くなる可能性はあると思っています。

マッチしていないというのはその通りですが、なぜマッチしてないかというと、欧米のやり方が唯一の正しい答えであるかのように受け止めてしまっていることではないでしょうか。それぞれの体、歴史、文化に合った経営のやり方はあるし、一ツ橋大学がCFO育成とか言っているけど、CFOなんて要らないんじゃないですか。番頭さんがいればいいでしょう、と。信用できる番頭さんがいるほうがよほど日本企業にはマッチしている、というような議論がなさすぎると思います。

村上:世界標準に合わせようとして、逆に合わなくなってしまったということですね。

北野:以前、ソニーの社長が文藝春秋に寄稿して、EVA経営でソニーはおかしくなったと書いてありましたが、そういうことがずっと起こっているんじゃないかと思います。結果としてROEが高いことには賛成なのですが、それを目標とすると、余計なものを全部省いていってしまうことになる。そのことのデメリットにもう少し自覚的であるべきではないかと思います。

河野:ガバナンス構造が変わったことで、日本の企業が投資なり採用なり支出を抑制したことが、マクロ経済に大きな抑制効果をもたらしたと思いますか。

北野:大きいかどうか程度はわかりませんが、抑制効果はあったと思います。これは大事なポイントで、「ファーム・コミットメント」というコリン・メイヤーというイギリスの経済学者が書いたなかなかいい本があるのですが、彼はこう書いています。株主価値を目標とすることが、その企業及び業界に対して、悪影響を及ぼすことに自覚的であるべきだ、と。

それを読んで、神戸大学で経営学を教えておられた加護野忠男先生に、「コリン・メイヤーはここまで書いておきながら、どうして株主価値を目標とすることが、国民経済にも悪影響を与えると書かなかったんですか」とお聞きしました。 すると、「それを書いたら、新古典派経済学者と全面戦争になりますからね」と。経営学者と経済学者はここのところで棲み分けているところがありますね。

河野:会社は誰のものかというときに、株主のものだという答えは、経済学的には自明のものではなくて、多くの国で法律的にそうなっているからなんですね。

村上:北野さんがおっしゃっていることはなかなか賃金が上がらない理由でもありますね。

山崎:そうですね。いわゆるトリクルダウンは自然には起こらないし、まさにそれを起こさないようにガバナンス改革と言われるようなことをやっている。

北野:山崎さんが最初におっしゃった、ROEを上げると言って賃金も上げろというのはおかしい、というのと同じことです。

山崎:コストを抑制して利益を出す。キャッシュがあればそれを賃金に回すよりも自社株買いや配当に回して、自己資本をスリムにする。数値目標としてのROEをてっとり早く達成するにはそういう話になりますよね。

北野:外国人に見せると「へー」となるのは、日本の社長の平均在任期間なんです。4年以内の人が50%と、短いんです。それぐらいしかやらない人がROEを上げろと言われたら、コストカットしかやれることがない。相手を見て目標を与えてあげないと。

河野:アベノミクスで一番評価しているのは、賃金を上げましょうと働きかけていることです。ただここで悩ましいのは、株式保有構造が変わったというのはグローバルで起きていることなので、一国経済に悪影響があるとしても、うまく回避できるツールがあるのか、ということです。

北野:ただ資本コストは国によって違いますから、そこをきちんと理解せずに、適当に7〜8%と言ってる国が一番ダメージを受けるんじゃないですか。河野さんが言うように潜在成長率がほぼゼロの国に、なぜ他の国と同じ資本コストを要求してくるの、ということを議論しなければならない。要はそこのところで事実上の金融引き締めをやっているということではないですか。


――中略――

北野:ROEを上げようとすることと賃金を上げようとすることを両立させようとすると、結局は売上高を増やせということになるんです。だったらストレートに売上を増やせと言えばいいんです。でも売上高を増やせと言った瞬間にみんな思考停止になってしまうんです。











ビル・ゲイツ、リチャード・ブランソン等の有力起業家が出資する「社会変革署名サイト」とは――「ネット署名」の威力が社会を変える!

2015年1月12日(月) 成人の日

ネットが変えるのは、何もメディアやビジネスばかりではない。
「社会の民主化」にも大きな影響力を与えつつある。

タイトルに示した署名サイトとは、
07年に米国で設立された「Change.org(チェンジ・ドット・オーグ)」で、
オンラインによる「署名サービス」を手がけている。

駅頭や街頭でおこなわれる署名活動の、いわばネット版。
社会問題をビジネスの手法で解決しようという良心的な行動であり、試みでもある。

応援したいね、こういう動きは。

個人やNPOなどにより政府や企業への要望が投稿され、
その投稿への賛同者は、自分の名前やメールアドレスを入力して署名する。


つまり市民や消費者の声をたばね、政府や企業に行動を迫るというしくみだ。

世界中で8400万人が利用し、
署名によって状況が変わる「成功事例」は1時間に1件のペース。(6日付の日経新聞より)

米国サンフランシスコで活動を開始し、日本にも活動拠点があり50万人が使用している。

ネットが変えたメディアやビジネスの「民主化」にならい、
それなら民主主義の「民主化」もネットで変えたい、変えることは可能だとのことで、
スタートした。

僕は新聞の記事で初めて知ったが、
上記の二人の他にもジェリー・ヤン(米ヤフー)、
エバン・ウィリアムズ(米ツイッター)などの名も見える。

名だたる起業家がそろって出資(2500万ドル)に応じたということで、
このサービスがメディアに紹介され、さらに注目が集まっている。

でも、どうしてこれだけの名だたる起業家が
出資に名を連ねたのだろうか?

記事で執筆者が述べている。

(彼らは)世の中を変える面白さと同様、
立ちはだかる壁の厚さをよく知っているからに違いない、と。

そしてブランソン(英ヴァージングループ)は、彼のブログで触れている。

自社の航空会社が米国でより競争を拡大しようとした昨14年、
この「チェンジ」サイトでの署名活動を展開し、
個人の多くの署名指示により行政当局の許可を勝ち取っている。

これはビジネスでの成功事例だが、
社会問題なら個人が抱えている問題でも賛同者が多ければ、

それはまさに「社会を変革」する力になり、
「声なき弱者」が自由に発言できる。


もちろん、市民運動に参加したことのない人でも可能だ。

この署名サイトサービス、どこまで大きな力を得るか。期待したい。






 元旦の朝日、読売、日経、東京、サンケイの五紙を読んでみた

2015年1月2日(金)

2015年元日付の新聞を売店で手にいれ、
購読紙の日経もふくめて都合5紙を読んでみた。

ちなみに、元日の午後、最寄りの三鷹駅の売店に行ったら、
日経は別にして、他紙はほとんど売りきれていた。

元日は複数買うひとが少なくない、と売店の人が言っていた。
日経は十分に数をそろえてある。

で、買えなかった新聞は
近くの新聞販売店からもとめた。

読んだというより、ざっと流し読みではあるものの、
五紙を読み比べてみることで
各紙の特性、持ち味、個別性がはっきりわかるところが面白い。

それが元日の新聞だからなおさらだ。

たとえば分かりやすい例だとこうだ。

同じ出版社の広告でも新聞によって、
広告がまるで違う。出版社流のマーケティングだね。

出版社は明確に各新聞媒体の読者層の軽重を判断していると
以前どこかで読んだことがあるけど、
確かにこうもはっきりと違う広告を見せられると首肯せざるを得ない。

同じ出版社なのに、
ある新聞には格調高く、
またある新聞にはまるで子供向けのような商品広告を打っている。

正月早々、こまごまとした内容に触れるのは面倒だからよすとして、
各紙で目にとまったのは、
扱いに大きい小さいはあるものの

「戦後70年」をキーワードにした社説や企画記事だった。

で、先に触れておくが、
一面記事で特に光っていたのは東京新聞だ。

記事では、<これではまるで、軍事用ODAではないか>として、
防衛省が考えている後進国への「武器購入国に資金援助」という大きな見出しで批判している。


この件については昨年の防衛装備移転三原則で、
すでに武器輸出が原則認められることになっている――僕の世代からすると信じがたいのだが。

反面同じ一面で「ビットコイン不正操作」と大々的に報じている読売だが、
それって、
元日の第一面で報じるほどのものなのだろうかと思うのだが、どうだろう。

たしかにネット時代だから、
見方の側面によっては、そういう扱いもあるかもしれないが、
どうなんだろう、これは――。

同じく、<なんだかなーこれは>と思うのは、
サンケイの全30段見開きで
阿部首相がパラリンピックの女性選手との対談で登場している記事だ。

本来なら元日特有の別冊の方で扱われるんだろうけど、
そこは首相だからということかな――現政権を指示するこの新聞だからいいとして。

それでも、サンケイ本紙を繰ると、「えーっ、ここまで、と思えるほど」ある彩り一色にそまっている。

まあ、サンケイはサンケイでその彩りでの旗幟を鮮明にしているのはわかるが、
はたしてこの先、こんなことで経営的に持つのだろうか……大丈夫なのだろうか。

もちろん、僕が心配することではないけれど、
以前、幹部と交流があったし、社屋になんどか顔を出しているので――。

光ってるほうに話をもどそう。
もう一つ光っていたのは、朝日のインタビュー記事だ。

世界的ベストセラーとして知られる、
翻訳されたばかりの

今話題の書「21世紀の資本」の著者トマ・ピケティが
自著について語っている
(他の新聞にもこの書については散見される)。

この書は「不平等の構造」を描いているとのことだ。

朝日の見出しは「失われた平等を求めて」(ネットにもあり)

700ページの経済学書を読むのもいいが、
このインタビュー(新聞一ページすべてを使用)では、
ほぼ彼の肝ともいえる主張について述べられているので一読をおすすめしたい。

トマが言う。

「結局、本で書いたのは、不平等についての経済の歴史というよりむしろ政治の歴史です」

で、日本では「格差」がなにかと話題だが、

そして民主主義の理念として「自由」と「平等」が並列されることをよく目にするけれど、

英語やフランス語だと
「格差」ではなく「不平等」という言葉を使うと取材者が解説している。

だから日本語の「格差」を「不平等」に置き換えると、
「男女の格差」が「男女の不平等」であり、

「一票の価値の格差」が「一票の価値の不平等」になるとしたら、

より具体的な意味を持って受け止められることになるが、
そういうことも含めてこの記事は読むに値する。


それで戦後70年の関連記事で一つだけ挙げておこう。

これも朝日だけど、一面トップにある。
今後の、シリーズ企画「鏡の中の日本」と題し、

各分野での著名人の個々の活躍を追って
戦後70年と関連付けて何事かを述べる企画のようだ。

その一回目「装う」で、
森英恵(88歳)や高田賢三への取材記事をベースに、

日本人デザイナーが世界にはばたく軌跡に触れつつ、
ファッションと平和の関係にまで及びつつ結んでいる。

この方たちのファッションの歴史なら、
50歳以上の世代はほとんど知っている内容だが、
若い人たちは別だろう。

中で一つ、
森英恵の代名詞でもある蝶のイメージデザインは、

彼女が初の海外旅行時(1961年)にニューヨークで出会った
日本文化の屈辱にはじまったものだったとある。


上の階ほど高級品が置いてある百貨店で、
地階に日本のブラウスが置いてあり、

「蝶々夫人」を見ると、
そこには描かれているのは妙ちくりんの所作ばかり。
それで冗談じゃない、との屈辱が残る。
(当時だから、まだ日本製品は安かろう、悪かろうということで)

そして65年の森のショー。
「蝶々夫人」の屈辱を忘れまいとして
蝶々の意匠を加えたのだった。








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