漁業の六次産業化・20代の
女性代表――「漁師が命をかけて捕った魚。
命をかけて売る」
山口県萩市の沖合にある小島(萩市大島・人口約1000人/300戸)で
2014年7月25日(金)
「山口県萩市に、漁業をよみがえらせた女性がいる」
「水揚げした魚を梱包し、市場を通さず料理店に直送する」
「武器はスマートフォンと全国の料理店150社のリストだ」
13日(日曜)日経一面のシリーズ企画
「革新力 The Company――変える意志」が、
上記のような小見出で記事として取りあげていた。
20代の女性(萩大島船団丸・坪内知佳代表)が
60人の漁師を束ね、
漁業の6次産業化にとりくんで成功させているというのだ。
農業の「6次産業化」ならメディアを通じて
まだ馴染みがあるけれど、
これが漁業となると稀有な事例と言えよう。
しかも水産業であっても昆布や牡蠣などの養殖事業ではなく、
漁船を繰り出しての外海での漁労としての漁業である。
ひと口に「6次産業化」というが、海上での〈漁〉に加え、
(漁協を通さず)加工して販売まで手がける事業となると、
いきおいハードルが高くなる。
その高いハードルをどうやって乗り越えたのか――興味を
覚えググッてみた。
坪内代表はその実績が認められ、
日経WOMAN「ウーマン・オブ・ザ・イヤー2014」に
輝いている。
「魚を獲る以外は全部わたしの仕事(営業・事務等)です」
と坪内代表。
飛び込み営業で取引相手となる
料理店(関西・首都圏)を自ら開拓し、
ブランド漁を直送する新市場を築いている。
すばらしい。
そしてすさまじい労働だ。
漁師さんにとっては、出港しての操業(漁)から、
船上での魚の加工、
お得意先への箱詰め、
商品発送まで含めると、
ほぼ24時間に及ぶ
眠る時間を削っての重労働。
漁師さんは帰港した時点で
体はバテバテの、厳しい状態にある。
嬉しいのは奮闘の結果が、
売り上げなどの数値に
成果として表れていることだ。
テレビ局による取材映像が
Youtubeにあったので見たら、
午後3時に出港して、船は2時間後に漁場に着く。
船上から代表のスマホに連絡が入る。
海上の天候や潮流などの様子から判断した、
今日の漁の見通しなどだ。
代表はすかさずスマホを通じ営業。
お得意である各料理店に向け、
水揚げ予想される魚の種類を伝える。
料理店によってはすぐにも折り返しの注文が入る。
あの魚、この魚、あるいはこういう魚などと
指定され、一箱いくらという注文だ。
なにしろ、獲ってすぐの鮮度抜群の魚だ。
料理店(和洋問わず)にとっては
のどから手が出るほど欲しい。
そのため、獲った魚は船上ですぐ活き締めにする。
これで鮮度が保たれ、
価格が2〜3倍にはね上がる。
おそらく漁師さんは通常、活き締めなどはしないはずで、
萩大島船団丸でも、はじめ漁師さんは
面倒くさがっていやがったとのこと。
※※ネット上にありました。
魚を活け締めにするプラスの理由について。
・死後硬直を遅らせる――つまり鮮度を保つ
・放血で微生物の繁殖を抑える――血液には
細菌が繁殖する条件が整っている
・うまみ成分の保持――苦しんで暴れるとATP(魚の筋肉にある
酸で、旨味成分)が分解されて旨味が落ちる
「魚は生きていれば新鮮で美味しいというのは誤解です。
水槽の魚は例外なく不味いもので、
店の生簀はデモでしかなく、
旨い魚を出す店は水槽の魚など使わないものです。
水槽にいる時間が長いほどATPの分解が進行して
〈抜け殻のような味〉になってしまうからです。
あるいは一時保管庫として水槽を使うのみです。
魚の旨味は死後硬直の一定時間経過後にしか出ません。」
※※「手前板前」さんのHPより
話を戻そう。
こうして深夜から未明にかけての漁が続く。
この間、船上と代表との間で
漁についてのやりとりが密に交わされる。
どういう種類の魚がどれぐらい獲れたかなどだ。
たとえば、船からは3〜4キロ前後の真鯛が獲れているとか、
代表からは注文がきてるけど、
サワラやタチはあるの、などという具合だ。
注文があっても、獲れてないものは、無い。
そういうやりとりだ。
代表は獲れた魚と注文を照らしながら、
どの魚を、どの料理店にどれだけ送るかなどの
振り分けを行い、
それを船に連絡。
船上では箱詰めの
下準備(活き締めや血抜き作業)がある。
朝の5時頃に漁船が寄港し水揚げされる。
そこから魚の選別や注文に応じた
個々の箱詰め作業がはじまる。
3時間の作業を終え、ようやく発送作業に。
そもそも6次産業化を目指したのは
従来のような漁獲が困難になったことにある。
漁業経営の悪化だ。
このままでは暮らしが立たなくなるということで、
三つの船団チームが組んで事業化を計画。
総合的な事業計画の書類作りは
坪内代表が担当した。
漁協との数年越しの話し合いをもって
協力体制をつくり、事業化へ。
少ない魚(漁獲量)で安定経営を目指すとなると
魚(商品)そのものへの付加価値を与えることだ、と。
そうした考えが6次産業化のベースにある。
課題は「安定供給」だ。つまり、生産量の確保にある。
そのために、イケスの準備をすすめている。
「萩大島船団丸」の6次産業化は、
難しいとされる漁協との協力体制を構築するなど、
全国の漁業関係者からその取り組みが注目を集めている。
以前、このブログでもたった2年で
一粒1000円の高級イチゴを作りあげて独自ブランド化し、
高島屋などで販売され、さらに外国にまで生産地を拡大して
世界を相手に販路を構築するという、
飛躍的なビジネス展開をしている農業生産法人を
とりあげたことがあるが(この法人は、僕の田舎の宮城県にある)、
「萩大島船団丸」はまだ始まったばかりの成功事例。
新聞のタイトル通り、
従来の漁協まかせの漁業のあり方に一石を投じ,
構造を変革させての事業化は、まさに「革新力」そのもの――。
坪内代表によれば、
6次産業化への取り組みには「意識改革」がいるとのこと。
1次産業者が3次産業へとりくめるような
従業員の意識改革が――。
1次産業の経営者なら、まず「6次産業とはなんぞや」という、
その根本を理解したうえでの取り組みが重要とのこと。
応援してます。
さらなる飛躍を期待したい。
2014年7月25日(金)